課題研究で育成される様々な資質・能力
課題研究で育成される様々な資質・能力は、次の3つに大別できると考えられます。
- ① 先行研究の調査や、仮説-検証の論理の構築、機器の操作、適切な測定やデータ処理、プレゼンテーション・スキルなど、探究に必要なコンテンツベースの様々なスキル(目に見える資質・能力)
- ② 主体性や創造性、企画力、メタ認知など、探究に必要なコンピテンシーベースの資質・能力(目に見えない資質・能力)
- ③ 知的好奇心や、自らの力で未来を切り開こうとする意欲など、内発的動機の発現(広い意味での資質・能力)
例えば、科学の原理や法則は、覚えたり理解したりしているだけでは何の役にもたちません。新しい探究の場面や、日常の課題解決の場面で活用できて、初めて「役立った」といえます。では、どのようにしたら知識を活用できるようになるのでしょうか。
全ての知識は、学んだ直後は、その生徒にとって最新の知識です。それが様々な経験や活動を経て汎用的な知識に成長し、新たな課題解決の場面で活用できるようになるのだと考えられます。役立った経験が無いのに役立たせようと考える人は稀です。役立った経験があるからこそ、次の場面でも役立つはずだ(役立たせよう)と考えます。このような正のスパイラルは、学んだ知識が「生きて働くこと」を実感できる学習の場を提供することによって、はじめて実現できると考えられます。科学的な知識の場合も同様であると考えられます。
このような認識の下、本校では課題研究と既存の教科・科目の学習、特に、理数系科目との関連を重視しています。教科・科目等の学習で得た知識等を課題研究の場面で活用させることによって、生きて働くことを実感できる経験の場を提供し、効果的な資質・能力の育成を図っています。
また、学んだ知識等が生きて働くことを実感する経験は、理科や数学など科学を学ぶことの有用性の認識にもつながると考えられます。
本校の課題研究指導では、課題研究を高度化するために必要な様々なスキルの向上を目指しています。例えば、第3期SSHでは、データ・サイエンスに必要な資料の統計処理や検定等のスキル向上に力を入れています。早くもその成果が結実し、本校生徒の課題研究が、統計グラフ全国コンクールで入選 * を果たしています。
課題研究をとおして育成される探究力を基盤とした主体性や創造性、企画力、メタ認知などに代表されるコンピテンシーベースの資質・能力は、研究者にとって有用なことはもちろんですが、例えば、政治や経済、教育、福祉など、様々な分野で活用できるジェネリック・スキルであると考えられます。課題研究を推進することは、科学技術人材等の育成を柱に、次世代を生きるあらゆる人々にとって有用な学びの場の提供につながると考えられます。
* 本校生徒の課題研究作品「ロードキルを防ぐ」
第70回(令和4年度)統計グラフ全国コンクール 主催:公益財団法人 統計情報研究開発センター 後援:総務省、文部科学省、全国統計教育研究協議会、NHK他
「長高メソッド」との関係
「長高メソッド」(長高とは長生高校の略称)とは、本校がSSHを全校規模で展開し、生徒全員が課題研究に取り組むことを目的に開発された探究的な教育モデルの総称です。
学校全体でSSHを展開し、課題研究を実践するには、理数教科の教員だけでなく、国語や地歴公民、芸術、体育などすべての教科の教員がSSHに取り組む必要があります。教員の意識の統一を図るためには、育成すべき科学技術人材像の明確化と同時に、教育手法についても明解なモデルの設定が不可欠です。「長高メソッド」はこのような目的で開発されました。
この「課題研究」の記事内で紹介している様々な取組は、全て「長高メソッド」の取組の一部です。例えば、生徒たちが探究に必要な要素を学ぶ際には「長高メソッド」のテキストやワークシートを用いますし、課題研究の発表も「長高メソッド」で開発されたカリキュラムの一部です。
(詳しくは「長高メソッド」の項目をご覧ください)
学科の特性を生かした課題研究へのアプローチ
理数科(各学年1クラス40名)
| 学年 | 科目名 | 単位数 |
|---|---|---|
| 1年 | 理数探究 | 2単位 |
| 2年 | 理数探究 | 1単位 |
| 3年 | 理数探究 | 1単位 |
| 計 | 理数探究 | 4単位 |
※いずれも7時間目に設定されており、放課後も活動を継続できます。
普通科(各学年6クラス240名)
| 学年 | 科目名 | 単位数 |
|---|---|---|
| 1年 | SS探究Ⅰ | 1単位 |
| 2年 | SS探究Ⅱ | 1単位 |
| 3年 | SS探究Ⅲ | 1単位 |
| 計 | SS探究 | 3単位 |
※ 「SS探究」は本校における「総合的な探究の時間」の呼称
生徒たちは、小・中学校で調べ学習の経験はありますが、本格的な科学的研究(探究)の経験はほとんどありません。経験がないのに、研究のハウツーや心構えの説明だけで優れた課題研究を期待するのは無理があります。ここでも知識と経験が車の両輪です。
本校では、理数科、普通科ともに、3年間で2回の課題研究を行うことによって、この問題を解決しています。
理数科・・・主に自然界の事象や科学技術に関する課題を中心に扱う
- 1年生夏休みに行うサイエンスツアー(学校外の宿泊学習)を研究の経験の場と設定し、班ごとのテーマ設定、取材、資料の整理、ポスターの製作、発表、相互評価といった課題研究に必要なプロセスを実際の経験をとおして学びます(3か月にわたる長期プログラム)
- 1年生の後半で新たな研究テーマを設定し、2・3年生では、物理、化学、生物、地学、数学の5分野に分かれ、それぞれの専門の教員(分野毎に2名ずつ)から指導を受けます。大学や学会等が主催する発表会等で研究発表します。論文を執筆し、課題研究論文集を出版します。
普通科・・・主に学際的な課題を扱う(トランス・サイエンス的アプローチを含む)
- 1年生では、13分野のゼミに分かれ、主に文献調査を中心とした初歩的研究(ポスター発表と報告書の執筆)に取り組みます。ここで、先行研究の調査や、仮説-検証の設定や論理構成の仕組み等を学びます。研究のプロセスで、何が必要なのかを知ることが主な目的です。試行錯誤したり、失敗したりすることも良い経験です。
- 2・3年生では、1年生と同様にゼミに分かれ、1年生の経験を生かした新たな研究(ポスター発表と論文の執筆)に取り組みます。理数科、普通科ともに、1年生での経験が基盤となって、2・3年生で見通しを持った研究を進めることができるようになります(探究の場面におけるメタ認知的学力)
大学・研究機関・企業等との連携
- ① 生徒の知的世界の拡大
人間は誰しも、自分の知識や経験を超えた発想は困難です。生徒の狭い知的世界の範囲では、課題研究の研究対象や研究テーマも限定されたものになってしまいます。研究対象を拡大し、そこに潜む様々な課題を主体的に見いださせるには、生徒の知の地平線を広げ、知的世界を拡大させることが最も効果的だと考えられます。
本校の連携講座は、講義形式の講座だけにとどまらず、例えば、大学の先生を講師とした実験講座の実施や、かずさDNA研究所での遺伝子組み換え実習、千葉県環境研究センターによる環境モニタリング実習など様々な体験を交えた取組を行っています。 - ② 専門家による課題研究の直接指導
生徒の興味関心や研究の対象となる事象は高度で多岐にわたるため、我々教員の技量だけでは指導しきれない場面が出てきます。このような場合、大学や研究機関、企業等の専門家による指導や助言をお願いしています。例えば、課題研究生物チームと数学チームが協働して取り組んだRaspberry Pi(小型のワンボードコンピュータ)を利用した機器開発の場面では、日本技術士会の技術者の方に何度も学校まで足を運んでいただき、Pythonによるプログラミングや各種センサーの設定などを指導していただきました。
個々の生徒の課題研究についても、千葉大学や東邦大学、秀明大学等の先生の指導や助言をお願いしています。 - ③ 高大接続につながるカリキュラム開発
さらに、専門家の視点から、大学教育への接続に必要な学力や資質・能力等に関する指導や助言お願いし、課題研究を柱とした高大接続に有用なカリキュラムの研究開発を行っています。
本校における高大接続の取組と課題研究の指導が科学技術人材等の育成に有用であることは、本校SSH卒業生が、大学院修士課程、博士課程等で活躍していることからも裏付けられています。
国際的に活躍できる人材の育成に向けて
- ① 海外の大学・高校との科学交流
本校では、毎年、海外へ生徒(希望者)を派遣し、海外の高校での課題研究の相互発表等による科学交流や、海外の大学での専門家による研究指導などの活動を行っています。これまでの主な派遣先は、台湾、マレーシアです。また、SSH関連以外では、アメリカやオーストラリアに姉妹校があり、文化交流や語学交流として生徒の相互派遣や受け入れを行っています。
近年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で直接の行き来は中止していますが、台湾の台北市立麗山高級中学とはオンラインによる課題研究の相互発表による科学交流を毎年行っています。 - ② 国際化に必要な資質・能力の育成
例えば、OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書を見ると、教員に対する問いで、例えば、「批判的に考える必要がある課題を与える」ことに対し、実際に指導実践を行っていると回答した中学校教員は参加48か国平均が61.0%でした。一方、わが国の中学校教員は12.6%に過ぎません。ダブルスコアどころか5分の1です(ちなみにアメリカは78.9%、カナダは76.0%)。これは中学校での調査結果ですが、高等学校になって劇的に改善しているとは思えません。これでは勝負になりません。
この対策として、本校では、批判的思考力を科学的思考力や論理性、創造性の基盤となる資質・能力として捉え、その育成を第3期SSHの大目標の1つに設定しています。
このことは一例に過ぎませんが、このような国際比較調査の結果を基にした目標設定も広い意味での国際化に必要な資質・能力の育成と捉えることができると考えられます。TIMSSやPISAの結果や分析についても、課題研究のような自由度の大きな学びの場面で改善に結び付ける視点が必要だと考えられます。